その日、この冬初めての雪が降った。
朝方には凍死者を出したほどの冷え込みのため、ビュー・ポート・パークは客の姿もまばらだった。頭上を走り抜けるジェットコースターも、風に舞う雪で霞む観覧車も、日曜日だというのに、ほとんど無人のまま動いていた。
これ以上開園していても無駄、と判断した責任者が、臨時休園を決める、少し前。
観覧車乗り場の近くで、1人の少年が保護された。
周囲に保護者の姿はなく、荷物もなく、ただ傍らに、破損し動けなくなったロボットが1体、転がっているだけだった。
警備員は少年に、名前や住所を訊ねたが、少年は一切答えなかった……いや、答えられなかった。もしかしたら、警備員の存在自体、彼は認識できていなかったのかもしれない。肩を叩いても、声をかけても、何もない一点を凝視したまま、小刻みに震えるだけだった。
少年は、右手に何かを握りしめていた。
大切な物なのか、それとも他に理由があるのか、きつくきつく握りしめていた。あまりにきつく握りしめていたので、爪が掌に食い込み、血が滲み出していた。
気づいた警備員が、慌てて少年の手をこじ開けると、銀色の小さな部品が現れた。
それは、“Z-713”と刻印された、小さな六角ナットだった。
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